照明弾
この時期になると思い出す光景がある
小学校4年生だったか
3歳離れた弟が喘息で
夏の間、
茨木の平磯の海辺に転地療養をしていた
やたら鮮明な思い出なのだが
日にち、までは覚えていない
夜、海からの風に当たっていると
いつもは、真っ暗で塩の臭いと潮騒だけの
世界が突如明るくなった
等間隔に
6つの火球が海をこうこうと照らしていた
母が照明弾かと言った
真っ暗な海よりも遥かに超える不気味さだった
翌朝、誰かが遭難したという話は、無かった
誰かに聞いていいものやら
躊躇する存在感のある不気味な明るさだた
結局何だったのか分からなかった
打ち上げ花火の華やかさもない 音もない
周りを照らし出す光は
静かでただただ重苦しかった
怖かったが、
元の暗闇に戻るまで動けなかった
連想されたのは、戦争だった
こういう物言わぬ照明に照らし出され
狙いを定められ爆撃されるのだ
私が、唯一経験した
平和の時代の戦争のひとかけらであった