粉引の器

きな粉をまぶしたような

両手にすっぽり入るサイズの粉引の器

淵から緩やかに深くなり平らな底に繋がる

ちょっとぶこつな感じのする器だ

実家から連れてきた

1000円しなかったと思う

いや500円しなかったか

雑器だ

この、なんていうこともない器を

美しいと感じる時がある

夏なら夜付けて朝取り出す頃合いの

糠ずけをのせたとき

たちまちのうちに美しくなる

キュウリの緑、カブの白、ニンジンの茜色をつつみ

黄みの、粉引地が優しい

思わず見惚れる

ふちをうっかり欠いてしまったが気には、ならぬ

がツウバイホウのパッケージ住宅の

効率重視の家に似合うテ-ブルの上に置くと

どうもいけない


ちょっと歪んだ無駄だらけの実家の

座布団ひいて座る食台には、

たたずまい良くおさまるのに

ダメなのだ

陶器より磁器でないとダメなのだ

効率重視の気密性の高い住宅には、

磁器が似合う

100円ショップの白い器が栄える


私には、夢があった

結婚したら駒場にある日本工芸館の

ミュウジアムショップで器をそろえたい

私は、磁器より陶器の甘さが好きだ

その夢は水泡に消えた

今は、100円ショップの白い器がメインだ

子供育てるにはありがたかった

そそうされても

鷹揚に構えていられた

我が子も育って割らなくなった

今となっては、一生ものである


あの、粉引の器

捨てられぬ

一人の朝

ご飯炊いて

買ってきたぬか漬けをあの器に盛って

悦に入る

シリアルだパンだ

私には、いまだに朝ご飯の天敵である

朝、食べられなくなって久しい