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祈りの心 木下晋

平塚美術館に我が子と行った
学芸員に力があるのだ
たまに、行きたいと思える企画と出会える
建物がいくら立派でも人間に力がなければ、
魅力的な美術館にはならないのだ


祈りの心 木下晋 展が見たかったのだ 私が
我が子をおっぽらかしでみていると

我が子は、
ハンセン病患者で盲目の詩人 桜井哲夫さんが
東日本大震災の話を画家から聞き、
津軽が故郷の桜井さんは、自然と合掌する姿になった
それを描いた絵の前で固まっていた

合掌した手は、指が崩れ、こぶしを握ったような肉の塊だ
顔も、崩れ、見えない片目が開いている
合わせた手に向かって頭を垂れる

丸い、丸い祈りのかたちだ
美しく、愛らしい姿だった

人間として声を掛けては、いけないと思った
ひたすら待った

一時間は、ゆうに過ぎただろう頃
展示室を出た


車で帰途に付いた、
不意に、我が子が桜井さんに会いたかったと言った

一瞬どうしょうかと迷ったが
伸びゆく一秒を信じて本当を伝えた

あの桜井さんは、

桜井さんを尊敬し可愛く美しいと思っている画家の
心のフィルターを通して描かれている

もし、お目にかかったとしても画家の心の丈にとどいていなければ、あの姿には、見えない
あなたより、三十八年長く生きている私でさえ自信は無い
簡単では、無い

仮に醜くく見えてしまったとしても、
その自分と一緒に居る覚悟が必要だ、
荒がえば差別がめぱえる

桜井さんが、清廉な魂を持ち合わせていることと
あなたに、それを風体に惑わされず見極める力があるかどうかは、別問題なのだ

もし、嫌悪を抱いてしまったら、静かに距離をとり
嫌悪を乗り越える可能性を手放しては、いけない
あとは、考えろと伝えた

大泣きされた、当分美術館は、いいと

我が子の心の
一升枡に、1升五合入れてしまったのだ
愚かな母親である

各なる上は、伸びゆく一秒を信じて時を待つより術は、ない

我が子には、気の毒だが
この手の失敗の多いこらえ性のない親なのだ
すまない
軽薄な現代なのに
さぞ生きにくかろう