薄墨桜

桜の下には死体が埋まっている
梶井基次郎の短編だ

岐阜の根尾谷
に薄墨桜は、ある
宇野千代の小説になった桜だ

二十代のころ真冬の薄墨桜を見た
空気が痛いほど冷たく、色の極端に少ない世界に
寒さを凌ぐすべもなく
ただ、ただ、たたづんでいた

唯一、光琳の紅白梅図の木肌のように深く鋭い
緑が幾つか目を止める
命ちが極寒に耐えていることを実感させた


死体の栄養分を黄金の根で吸いとったと想えるほどの、暗黒をはらんでいなければ
桜のあまりにも大勢な花のさまは、あり得ないと
梶井基次郎は、書く

薄墨桜の燻し銀のような極寒の静かな様を
花の頃よりも、なお美しいと思う私には、

梶井基次郎のそれは、感傷にすぎる